船瀬俊介連載コラム
メープルとは、楓のこと。
カナダの国旗を思い浮かべてほしい。その真ん中に赤く形どられているのが、楓の葉である。
ではシロップとは?原語はオランダ語(siroop)。「濃厚な砂糖液」「砂糖蜜」という意味である。それが、英語のシロップ(syrup)と変化した。
つまりメープルシロップとは楓から採れた濃い糖蜜という意味。つまりは北アメリカ産の砂糖楓から染み出す甘い樹液を濃縮したものだ。
日本では古くは「楓糖蜜」と呼ばれていた。
それでもピンとこないときには「ホットケーキにかけるアレだよ」といえばピンとこよう。ただし、これはカナダでの話。
後でのべるように、日本ではほぼ一00%ニセモノだから情けない。
白砂糖、はちみつよりはるかに優れる
ほんもののメープルシロップの特徴は、カロリーが砂糖や糖蜜よりはるかに少ない。なのに、カルシウムやカリウムなどのミネラルは驚くほど豊富である(図表参照)。
たとえば一OOgあたりのカロリーは上白糖を三八四kcal(一00%)とすると、はちみつ二九四kcal(七七%)、これに対してメープルシロップニ五八kcal(六七%)とカロリーは白砂糖の三分の二。
さてカルシウムは一00gあたり上白糖一mgはちみつ二mgと論外。これらは”エンプティ・カロリー(空の熱量)“と呼ばれる。
つまり釜を空炊きするようなもの。釜(すなわち体)を傷めてしまう。
これに対してメープルシロップのカルシウム含有量は八五・六mgもう―つの人体に必須ミネラル、カリウムも上白糖三mgはちみつ一三mgを、メープルシロップは二四一mgと、はるかに引き離している。
われわれは、はちみつはミネラル豊富な甘味料という先入観を持っているが、白砂糖とほとんど変わらないことは、心すべきであろう。
この、はちみつに対しメープルシロップは、カルシウム四三倍、カリウム一九倍…とはるかに引き離している。
メープルシロップが健康甘味料として注目されるゆえんだ。
ダイエット甘味料としてきわめてすぐれ、白砂糖などより、はるかにおすすめなのである。
ガムシロップの正体は砂糖水ナリ
シロップつながりで、すぐ思い浮かべるものにガムシロップがある。
コーヒーが苦手なわたしは喫茶店でミルクティーをよくオーダーする。すると、かならずガムシロップがついてくる。
なんの気なしに注いでいるが、これはメープルシロップと、どうちがうのか?
「砂糖シロップに、結晶を防いで粘性を増すためのアラビアゴムを加えた甘味料」(『広辞苑』)。なんのことはない。
その正体は、砂糖液にゴム(gum)を加えたものだったとは……。けっきょくスプーンで白砂糖をすくって入れるか、透明容器カバーを剥いで注ぐかの違いしかなかったわけだ。
それにしても甘味にだまされゴムもいっしょに啜っていたとは……。飲み込んでも安全なのか。いらぬことが気にかかりだす。
似た”シロップ”商品も、どんなものか。頭にいれておこう。
◎果実シロップ:イチゴやレモン、メロンなどの果汁に、砂糖を加えて濃縮した溶液。これに水を加えると果実風味の甘い飲み物となる。
ただし、最近は果物の香りの合成香料に着色料を添加したものも果実シロップで売られている。心すべし。
◎コーヒーシロップ:これも、似たようなもの。まずコーヒーに糖分を加える。そしてグッグツ煮詰める。濃厚かつ香り高いトロトロ煮汁が完成。
これがコーヒーシロップである。氷水を加えるとアイスコーヒーが一丁上がり!ファストフード店や、その辺の喫茶店で活躍していることは、まちがいない。
砂糖で増量ニセ・メープルシロップ
ここで、気になるのは「砂糖を加え……」という表現だ。
それが、ちゃんと”シロップ商品“で売られている。ということは、市販”メープルシロップ“も砂糖を加えたニセモノが堂々と出回っているのでは……?
まさにそのとおり。この辺は、はちみつと似ている。いまや「砂糖」や「水飴」を加え増量したものがハバをきかせ、ほんものを見つけ出すのさえ難しい。
この”増量サギ“は二昔前のソバ粉にも横行していた。ソバ粉が高価なので、四分の一、五分の一……と安い小麦粉を密かに加えて、増量し「ソバ粉」でござーい、と製粉業者(つまり粉屋)は売っていた。
それを街のソバ屋は「一00%ソバ粉だ」と思い込み、さらに”つなぎ“で二割小麦粉を足す。ほんらいならニ八ソバができあがるところが”八ニソバ”とあいなる。
こうなると、ほとんどが小麦粉だから、もはやソバ風ウドンである。このあきれ返った偽ソバ商売の悪しき慣行は、わたしが日本消費者連盟スタッフ時代に告発、ストップさせた。
爾来、ソバが突然美味くなり、それから空前の本物ソバブームに火がついたのだ。
閑話休題—ーー。
このソバ詐欺商法のように、安い増量材を入れたくなるのは、本物が高価だからだ。
メープルシロップも、おなじことがいえる。
まず採取する砂糖楓の原木は、カナダの限られた地域にしか育たない。それもとうぜん無農薬。自然に生えた樹木のみから採取される。
樹皮に傷をつけて採取するわけだが、タラタラ垂れてくる無色透明の樹液は、それほど甘いわけではない。
糖度は二度という薄さ。それを四0分の一まで煮詰めて、メープルシロップはできあがる。
むろん、添加物や砂糖などは一切不使用。一00%天然の甘味食品なのだ。
かてて加えて、樹液は、毎年二月末から四月にかけての一か月余りの短い期間しか採取できない。ますます希少価値は増すばかりだ。
一本の楓の木から、一年間に採れる樹液は六O~九OL。それを四0分の一にコトコト煮詰めると、わずか一・五~ニ・ニ五Lのメープルシロップしかできないことになる。
さらに、メープルシロップも、最高級品質を「エキストラライト」、高級品を「ライト」と呼ぶ。
これらは全体量の一〇~ニ0%しが採れない。つまり、一本の楓樹木から、一年間に採れる高級品はたった一~二本なのである。
なんと貴重な逸品であるか。だれしもうなづくばかりであろう。
マイナス二0℃の過酷な採取労働
さらにまた。寒冷地に属するカナダで二月から四月は厳寒期で気温マイナスニO℃身も凍る森林地帯で農家の人たちはメープルシロップ採取にいそしむ。
想像を絶する労働条件。激しい凍傷などと隣あわせの過酷な農作業では、メープルシロップが貴重かつ高価なものになるのはとうぜんの話であろう。
おまけにである。日本に輸入するときには約一七%の関税がかけられる。
メープルシロップ輸入業者として知られる田辺インターナショナル(株)は、こう訴える。
「…… 100%天然で、ブレンドもされていないで、古い樹液やメープルシロップを使っていないで、いっさいの化学物質を使わず、砂糖類も使っていない極上のメープルシロップを、安い値段で売ることが可能でしょうか」
いや、まったくその通り。高いのはあたりまえ。逆に、エッとおどろくほど安いメープルシロップは、砂糖などで大増量したマガイモノとみて、まちがいない。
ほんものとは?カナダ政府の厳しい定義
値段の高い、安いしか、ほんもの、ニセモノを見分ける方法はないのか?
そうではない。楓の葉を国旗にしているカナダ政府のこと。正真正銘のほんものメープルシロップには、法律で厳しい定義を定めている。
100 %天然で、どうして品質がちがうのだろう?
それは、樹液が採れた時期によって、甘味や色がちがうからだ。オリーブ油でもヴァージンオイルがあるように、メープルシロップも、最初に採れた樹液を煮詰めると淡い琥珀色にしあ
がる。
これらが「エキストラライト」「ライト」である。甘味もクセなく、さっぱりしているので、そのまま味わいたい。
その後に滲みでる樹液は、煮詰めるとだんだん濃い琥珀色になっていく。甘味も増す。これら後採りシロップは「ミディアム」「アンバー」と呼ばれる。
強い甘味を好むなら、こちらがおすすめ。加熱してお菓子などに使うのにも適す。
エキストラライト…採取時期で四等級に
以上で、おわかりのように、カナダ政府の品質基準は「採取時期」によって分類される。
それはーー。
①「No.1:エキストラライト」、②「No.1:ライト」③「No.1: ミディアム」④「No.2:アンバー」これら等級表示が、メープルシロップ容器に義務づけられている。
ただし……「おなじ等級でも、幅がありますので、色や味がちがいます。すべて、何時もおなじ色、味ということは、本物ではありえないのです」(田辺インターナショナル(株))。
なお、樹液を煮詰めて、水分やアクを蒸発させて、濃縮したメープルシロップは、比重が一・三二もある。
とうぜん水よりも重い。そのため、カナダ政府の法律は、グラム表示は厳禁。ミリリットル表示のみを認めている。
「表示」は日本はメチャクチャ野放し
以上は、国の誇りメープルシロップの品質を守り抜くカナダ政府の法律。では、日本で売られているメープルシロップこれがメチャクチヤ。
砂糖をたっぷり入れようが、何で増量しても……それどころか、ほんもののメープルシロップが一滴も入っていなくても、「メープルシロップ」とラベル印刷して売ってかまわないのだ。
「そりやあサギじゃないか!」と声を荒げたくなる。
「日本では、メープルシロップの法律はありません……」と田辺インターナショナル社もあきらめ気味。
「……カナダ政府の法律は、カナダ国内だけに適用される法律で、カナダから輸出されるものについて適用されませんし、いっさいの検査・許可も必要とされませんので、残念ながら日本では野放しになっているのが現状です。ラベルに何を書いても自由なのです」
天を仰ぐとは、このこと。日本のスーパーなどでお目にかかる”メープルシロップ”は、まずニセモノと踏んでかかるべし。
ならば国内で、ほんものに出会う確率はゼロなのか……?
極上天然一00%!エミコット・シロップ
そうではない。良心的業者は、どの分野でも存在するものだ。
前出の田辺インターナショナル社が提携しているカナダのエミコット社のメープルシロップは、日本国内でも自主的にカナダ政府の法的定義を順守している。
http://www.maplesyrup.co.jp より
まず①一切無添加の一00%天然。②カナダ政府の検査を受けている。③日本の風土に合った品質管理・衛生処理を実施。④化学薬品類は一切不使用。⑤品質証明する各種検査を行っている。
これなら、まさに安心、安全のメープルシロップとしておすすめできる。
このエミコット・メープルシロップは、日本テレビの人気番組「どっちの料理ショー」でも「極上メープルシロップ」として紹介された。
さらに、毎回つっこんだお昼の健康情報番組「おもいっきりテレビ」でも、「糖尿病の患者さんによい」と紹介されている。
さらに料理バトル番組として人気を集めた「料理の鉄人」でも、登場したカナダ人シェフが
「極上メープルシロップ」として紹介し、それをつかった料理を披露している。
価格は、たとえば「No.1:ライト」(二五0ml) 一五00円、「No.1: ミディアム」(一00ml)六五0円など。
なるほど安くはないが、ビックリ仰天の高さではない。少しずつ風味を楽しむ世界だろう。
甘味をさまざまバリエーションで楽しむ
さて、メープルシロップの味わいかたは。
▼コーヒー、紅茶、かき氷に最適。
▼ホットケーキに垂らす。
▼トースト、パンさらにフレンチトーストに。
▼コーンフレークなどシリアル(乾燥穀物)の味付けに。
▼イチゴやイチゴミルクに加えて。
▼お酢とメープルシロップの冷水割り(疲れが取れる)。
▼レモンを絞りメープルシロップと冷水割り(風邪を引いたときはホットで!)。
▼梅酒にも数滴で風味が増す。
▼ニンジン、かぼちゃなど野菜煮の味付けに砂糖がわり……などなど。
100 %天然のエミコット・メープルシロップには、以下の関連商品がある。
A:メープルシロップ・ジャム
カナダ産の新鮮果実をメープルシロップだけで煮詰めた贅沢な逸品。むろん世界初のジャムである。化学添加物や香料の無添加は当然。
それどころか砂糖やペクチンなども一切使用していない。「果物の実をツブ状にメープルシロップだけで煮詰めたジャムでフルーツソースタイプに仕上げています」(同社)。
ブルーベリーとストロベリーの二種類あり。
B:メープル・バター
メープルシロップを脱水してペースト状態にしたもの。一00%メープルシロップを原料に作られている。
”バター”と呼んでいるが乳製品ではない。まったく新しい低カロリー甘味食品。
「美味しいことこの上ないといっても過言ではありません」(同社)
そのままパン、トーストなどに塗って賞味する。また乳製品のバターと合わせても美味という。
C:メープル・グラニュール
100 %メープルシロップを脱水して、サラサラ粉末状にしたもの。見た目は白砂糖だが、栄養価はまったく異なる。きわめてヘルシーなので、テーブルシュガーの替わりにおすすめだ。
なお、ほんものメープルシロップは、天然・無添加なので開栓前は冷暗所、開栓後は冷蔵庫の保管が原則。そして早めに使い切ること。
さて、田辺インターナショナル社に寄せられたお客様の声を紹介しよう。
▼主人が糖尿病。メープルシロップを使うと砂糖を使用したときのように血糖値が上がらないのです。
▼アトピーの子どもに、メープルシロップを食べさせたところ、だいじょうぶでした。
▼骨粗しょう症なので、カルシウムが豊富なメープルシロップを毎日いただいています。
▼お歳暮にメープルシロップを贈って、すべてのかたから「美味しい」と感謝されてます。
▼難病の食事療法で「糖分はメープルシロップからとるように」医者に勧められている。自然治癒の―つになっているようで具合がいい。
(中略)
甘味だけでなく、もう一度、伝統的な奥深い味わいの境地を見直したいものだ。
月刊マクロビオティック 2003年10月号より
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船瀬俊介 (ふなせ しゅんすけ)地球環境問題評論家
著作 『買ってはいけない!』シリーズ200万部ベストセラー 九州大学理学部を経て、早稲田大学社会学科を卒業後、日本消費者連盟に参加。
『消費者レポート』 などの編集等を担当する。また日米学生会議の日本代表として訪米、米消費者連盟(CU)と交流。
独立後は、医、食、住、環境、消費者問題を中心に執筆、講演活動を展開。
船瀬俊介公式ホームページ= http://funase.net/
船瀬俊介公式facebook= https://www.facebook.com/funaseshun
船瀬俊介が塾長をつとめる勉強会「船瀬塾」= https://www.facebook.com/funase.juku
著書に「やってみました!1日1食」「抗がん剤で殺される」「三日食べなきゃ7割治る」「 ワクチンの罠」他、140冊以上。