日本そば食べ歩きの愉しみ【そばのスーパー栄養】

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船瀬俊介連載コラム 

「どうでい、ちょいと、そばでもたぐろうか?」

落語の世界でも、そばの噺は欠かせない。また引っ越しそばから年越しそばまで、日本の古き良き暮らしに、そばは馴染んできた。

昨今そば通を自称する人も多い。本格的な日本蕎麦店も全国に暖簾を競う。そば好きにとって、ちょいと暖簾をくぐる食い歩きの愉しみもまた格別。

私も人後に落ちないそば好きだ。とくに新そばは、まず汁に付けず、そのまま口に運ぶ。幾度か噛むと、鼻に新そばの香りが抜けて何ともいえない。

そばはスパゲッティなど西洋の麺類とくらベて、何とまあデリケートであろうか。微妙な色合い、歯応え、香りのちがい。それを、嗅ぎ分け、噛み分け、味わい分けるのが、そば通の醍醐味……。

大味な西洋の食文化と、繊細な東洋の食文化。

そのちがいを際立たせるのが、そばの味わいの境地といってよいだろう。

真のそば通は汁に薬味の葱を入れることも嫌う。葱がそばの香りを殺すからである。江戸っ子は、そばを汁にたっぷり漬けるもんじゃぁねぇと映呵を切る。

半分だけ汁につけて啜る。

すると、そば自身の味、つぎに汁のついた味の二つが楽しめるという理屈である。

落語で「死ぬまでに、一度、そばにたっぷり汁を漬けて食いたかった……」という台詞があり笑わせる。

江戸っ子の粋好みと痩せ我慢の面白さ。

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風味が生きる「そばの三たて」

老舗の蕎麦屋は出前を断る。これも気取りや嫌がらせではない。そば好きなら、だれでも知っている符丁に「そばの三たて」がある。

つまり「挽きたて」「打ちたて」「揚げたて」。つまり、客の顔を見て、玄そばを挽いて、打って、揚げたものがいちばん美味しい、という意味で「三たて」という。

一生を、そばにかけたある製粉会社の社長さんから初めて伺い、なるほど、そばの世界は奥深く厳しいものだな……と得心した。

つまりは鮮度と風味が命。だから、どうぞと出されたら、すぐ箸を付け鼻先に運べば、ほのかに香り、口に含めばコシが味わえる。

出前をすれば、時間がかかる。

「揚げたて」の香り、コシも飛んでしまう。のびてしまう。だから、本来、蕎麦屋の出前などありえない。

ある高名な蕎麦好きの文学者が亡くなる間際に、せめてもう一度、行きつけのあの老舗のそばが食べたい……と枕元の近親者に言う。

この世の名残にと身近な者が、これこれ、かくしかじかと、その名店に出前を頼む。

しかし電話を受けた店主は、どんなご事情でも出前はできませぬとピシリ頑くなに断り、ついにそのまま殺しちゃった……というエピソードを聞いた。

そば好きの意地と、そば売りの意地がぶつかったいい話だ。

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私の周辺にも”そば食い“は多い。ある人など全国、数百の評判の蕎麦星を食い歩いて、全部、空で記憶していたのにはたまげた。

「……静岡と言えば、駅前の角を右に曲がった先にある蕎麦屋は旨くてねえ……」と地名が出るとパッとその土地の美味い蕎麦屋がデータベースのように出てくるのだ。

そばは日本酒と似ている。どれも同じに見えて、どれ―つとして、同じものがない。その微妙精緻な違いを食べ分けることも、またそば食いの楽しみなのだ。

このデリケートな味わいの境地が、欧米人などに、分かるのかしら……と思っていたら、オーストラリア、シドニーに本格的な日本蕎麦屋が開業して、大変な評判だという。

最初はヘルシーフードとして、暖簾をくぐる白人が、そのシンプルに見えて奥深い味わいの世界に目覚めているのだろう。

日本を救ってきた救荒作物

この夏、東北福島を旅した。列車の窓外に一面の白い花の蕎麦畑が広がる。

稲の転作作物として蕎麦が栽培されているのだ。「タデ食う虫も好き好き」といか広炉ある。蕎麦はタデ科の植物だ。

五月から六月にかけて栽培される夏ソバと、九月から栽培される秋ソバがある。痩せた土地や寒冷地などでも育つ強靱な生命力を持つ。

さらに、植えて五O~七〇日で収穫できる。そのため飢饉などを救う救荒作物としで古くから作付けされてきた。

その記録は古く『続日本紀』に、養老六年(七二二年)、元正天皇が「日照りにより、稲が育たなかったので、応急策としてソバを作るみことのりよう」詔を出した、という記録がある。

そばは日本人の生命をも、救ってきたのだ。

地球温暖化、異常気象など、飢饉の恐怖は世界的なものだ。日本人のサバイバルのためにも、
救荒作物そばを再評価するときだ。

「ザルそばばっかり食ってると、栄養が足りないよ」

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世におせっかい、勘違いは多い。実は、そばは、ほぼ完全栄養食と言っても過言ではない。

比叡山延暦寺に室町時代から伝わる”千日回峰行“と呼ばれる荒行がある。その踏破する距離は四万……!なんと地球一周に相当する。

世界広しといえども宗教的修行で、これを超える過酷な行はあるまい。

この荒行に入る前にトレーニング的な前行がある。100日間五穀を食べてはならない「五穀断ち」である。

主食の米、麦、豆腐などの他、塩もとらない。その代わり五穀に入らないそばと少しの野菜だけで生命力を保つ。

この前行が後の九日間の「断食・断水・不眠・不臥」の超荒行に耐えさせる体力を養うのだ。

人間が断食・断水で生きられる限界は三日とも言われる。さらに眠らず、横にならないで九日も過ごすのだから言語を絶する。

延暦寺の大僧正、葉上照澄師は、四五歳から、この”千日回峰行“を三回も達成された、まさに超人である。

蕎麦のスーパー栄養がなければ絶対に不可能であった奇跡であろう。

そばも畑の肉だ

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そばの実は堅い菱形の殻に覆われている(図A)。

殻を取り去った実を、そば米と呼ぶ。たんぱく質は、(九・七%)、精白米(六・八%)と、そばの方が1.5倍と豊富。

ふつう、そばは、つなぎに小麦粉を使い麺に打つ。これを、そば切りと呼ぶ。小麦のたんぱく質が加わるので、そば切りは、御飯に比べてたんぱく質は約二倍となる(図B)。

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人体で作られないアミノ酸を必須アミノ酸という。そばには、そのリジンが米や小麦粉の二倍以上も含まれる(図C)。

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そばはたんぱく質が米よりも質量とも2二倍以上優れるのだ。小麦粉には必須アミノ酸のリジンが極めて少ない。よってパンを主食とする人々は、それを補うために必然的に肉を求めた。

こうしてパンと肉というパターンが定着した。

食糧学院校長の高木和男氏によればそばは豊富なリジンで穀類の欠点を補うという。つまり、そばは肉の代わりとなる。

大豆が畑の肉と呼ばれるが、そばも畑の肉であったのだ。

(リジンを大量にとるには牛肉が最適に思える。しかし動物性脂肪等による大腸ガン、心臓マヒ、脳卒中激増などリスクの方が大きい。要注意)。

食物繊維も白米の2.5倍

そばのもう―つの利点。それが食物繊維だ。大腸ガン、心臓病、糖尿病、脳梗塞などを防ぐ効能があり栄養学的にも注目されている。

日本人は第二次大戦後は17~20gの食物繊維をとっていた。しかし食生活の洋風化で14~15gまで減少。

現代人にとって、より多くの食物繊維をとることが、きわめて重要だ。そば粉には食物繊維が白米の2.5倍も含まれる。

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それもヘミセルロースと呼ばれる食物繊維。これはフスマに多く、水分を吸収する力が強い。

つまり大腸内で毒性物質やコレステロールなどを吸着し、おまけに便秘まで解消してくれる。

千葉大学の面白い実験がある。ネズミにそば粉五五%を含むエサを与え、同量の小麦粉を加えた対照群と比較してみた。

すると、そば粉の方が血中コレステロール上昇が抑制された。

つぎに市販「そば麺」(そば粉45%、小麦粉55%)と「ひやむぎ」(小麦粉100%)をネズミに与えてみると、やはり「そば麺」の方が「ひやむぎ」より血清の総コレステロール値を低下させた。

さらに善玉である「高密度リボたんぱく質中コレステロール」は増加していた。

つまり悪玉を減らし、普玉を増やし、コレステロール代謝を改善したのだ。

国立栄養研究所の栄養資源開発研究室長、辻啓介氏は「そば食は動脈硬化性疾患の心筋梗塞や脳梗塞に対して予防効果をもち、多分その効果は食物繊維によるもの」と指摘している。

続きはこちらから→そばを食べると高血圧を改善し心臓病や脳卒中リスクを未然に防いでくれる

月刊マクロビオティック 2002年11月号より

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船瀬俊介 (ふなせ しゅんすけ)地球環境問題評論家

著作 『買ってはいけない!』シリーズ200万部ベストセラー 九州大学理学部を経て、早稲田大学社会学科を卒業後、日本消費者連盟に参加。

『消費者レポート』 などの編集等を担当する。また日米学生会議の日本代表として訪米、米消費者連盟(CU)と交流。

独立後は、医、食、住、環境、消費者問題を中心に執筆、講演活動を展開。

著書に「やってみました!1日1食」「抗がん剤で殺される」「三日食べなきゃ7割治る」「 ワクチンの罠」他、140冊以上。

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